コラム

介護を必要とする高齢者の「尊厳」を保持するとはどのような意味か

介護保険法の総則には、加齢に伴い介護を必要とすることになった要介護者の尊厳を保持することや、能力に応じて自立した日常生活を送ることができるように必要な保健医療サービスや福祉サービスで給付をおこなうことが明記されています。

 

ここで「尊厳」という言葉が出てきますが、介護現場における要介護者や高齢者の尊厳とはどのようなことを意味するのか説明していきます。

 

「尊厳を守る」とは具体的にはどのようなこと?

「尊厳」という言葉の意味は、「とうとくおごそかなこと。気高く犯しがたいこと。またそのさま。」とされています。

 

そのため「尊厳を守る」ということは、その方の体面を貶めることなく、名誉や自尊心を傷つけないことといえるでしょう。

 

介護現場で利用者のケアを行うときには、利用者は一人の人としてとらえ、「身体面」「精神面」「社会面」それぞれで注意を払うことが必要といえます。

 

ケガや病気の発生の他、機能・能力などの低下を防ぐことが必要です。

 

不安や不信、悲しみや怒りなどを感じさせない、精神面での気配りも必要となるでしょう。

 

また、選挙の投票権など社会的権利を剥奪することや、経済的損失を負わせないことも重要となります。

 

「尊厳」は利用者だけでなく介護者も守られるべき

介護現場で利用者の尊厳を守ることは大切ですが、同じく介護者の尊厳も守られるべきといえます。

 

介護者に含まれるのは介護現場で働く職員や、利用者の家族です。

 

介護施設で起きる問題として、介護スタッフから利用者に対する虐待などが取り上げられることがありますが、反対に利用者からスタッフに対する暴言や嫌がらせなども顕在化しています。

 

賃金に見合わない過酷な労働条件や職務内容などもその例であり、利用者だけでなく介護スタッフの尊厳を保持することも重要と考えるべきといえます。

 

介護現場で利用者の「尊厳」が守られているかチェック

尊厳を守ることは個人の人権を守ることにもつながりますが、たとえば次のようなことを介護現場で行っていないか確認してください。

 

  • 利用者に対する声かけで赤ちゃん言葉を使っている
  • 利用者に対し上から目線やため口で会話している
  • 利用者の介助でプライバシーに十分に配慮できていない
  • 安易な理由で身体拘束をしている

 

特に身体拘束については、やむを得ず許されるのは次の3つに該当するときです。

 

  1. 利用者本人や他の利用者などに対して危害を加える恐れがある場合
  2. 身体拘束や他の行動制限がない場合
  3. 身体拘束が一時的なもの

 

これらの理由すべてが前提の上、「身体拘束廃止委員会」で検討することも必要とされており、確認と記録が必要となっていますので注意しましょう。

 

 

介護現場での基本的な「尊厳」の考え方

利用者の尊厳を損なうことなく豊かな生活を送ってもらうためには、身体・精神・社会のそれぞれに注意することが必要です。

 

そこで、それぞれの介護現場における「尊厳」についての考え方を理解しておきましょう。

 

身体面で守られなければならない「尊厳」

利用者の身体面での尊厳を守る視点のうち、「ケガを予防する環境づくり」で尊厳を損なっている例として、主に次のような事象が挙げられるでしょう。

 

  • 転倒により骨折させる
  • 誤嚥の発生
  • 褥瘡の発生
  • やけどを負わせる
  • 手荒い介護を行う
  • たたいたりつねったりする
  • 身体を拘束する

 

また、「病気を予防する環境づくり」では、感染症(白癬症・食中毒・風邪など)の感染予防をしなければ尊厳が損なわれているといえます。

 

「機能を低下させないための予防環境づくり」では、生理現象を放置したり我慢させたり、自らの能力を使う機会を奪ったりつくったりすることも挙げられます。

 

本人ができることまで奪う過剰な介助や長時間の放置、安全への配慮をしすぎて外出をまったくさせないといったことも尊厳を奪う行為となります。

 

精神面で守られなければならない「尊厳」

精神面での尊厳を守る視点のうち、「不安を感じさせないための環境づくり」で尊厳を損なっている行為として、主に次のことが挙げられます。

 

  • 放置したり一人ぼっちにしたりする
  • 不安な環境下に置く
  • 驚かせたり怖がらせたりする

 

さらに「不信感を抱かせないための環境づくり」で尊厳を損なう行為には、嘘やでまかせを言ったりだましたりすることや、約束を忘れることなどが挙げられるでしょう。

 

「悲哀を感じさせないための環境づくり」では、尊厳を損なう行為として次のことが挙げられます。

 

  • 話しかけられても無視をする
  • 他の利用者と差別する
  • 仲間に入れず孤立させる
  • あざ笑ったりいじめたりする
  • 一方的に決め付ける

 

「怒りを生まないための環境づくり」で尊厳を損なう行為には、馬鹿にしたり見下したりすることや、子ども扱いすること、無視・強要・欺く・後回しにするといったことが挙げられます。

 

社会面で守られなければならない「尊厳」

社会面で尊厳を守る視点として「権利を剥奪しないための環境づくり」が挙げられますが、たとえば職業選択の自由・言論の自由を守らないこと、選挙権を行使させないことや生存権を侵害したり男女平等に扱わなかったりといったことが該当します。

 

「経済的損失を負わせない」ことも重要ですが、利用者本人のお金で無駄な消費や高価な買い物をすることや、非効率で効果のないケアをすることなどは尊厳を損なう行為といえます。

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